人と同じように、犬にも貧血は起こります。人の場合「なんとなくだるい」「めまいがする」など自分で自覚症状を感じて受診することができますが、犬は言葉で体の不調を訴えることができません。

飼い主様が気づいた時には重症化している場合もあるため、日頃から犬の様子をよく観察し、異変に気づくことが大切です。

今回の記事では、犬の貧血とはどのような病気なのかということについて理解を深める解説を行うと共に、原因となる病気や検査方法、治療方法などをご紹介します。

犬の貧血とはどのような病気?

はじめに、貧血という状態について詳しく解説します。

犬の貧血はヘモグロビンの減少によって起こる病気

貧血とは、血液中の赤血球そのものの数や、赤血球の中の「ヘモグロビン」という物質が減少する状態です。ヘモグロビンは、酸素と結びつくことによって、全身に酸素を配る働きを持ちます。そのため、赤血球自体が減少したり、赤血球の数は正常でも、赤血球の中に含まれるヘモグロビンが減ると体が酸欠状態になり様々な症状があらわれます。

貧血の症状は、貧血の程度によって異なります。一般的には、可視粘膜と呼ばれる目や口の中などの目に見える部分の粘膜が白っぽくなる、元気消失、食欲の低下、失神、沈うつ、呼吸が荒くなるなどです。

貧血になりやすい犬種

どのような犬種でも貧血になる可能性はあります。しかし、なかにはもともとの体質から特に注意すべき犬種もいます。

遺伝的にビタミンB12を吸収しにくい犬種
ジャイアントシュナウザー

玉ねぎなどのネギ中毒による貧血を起こしやすい犬種
もともと「還元型グルタチオン」を高濃度に持つ犬種。柴犬や秋田犬などの日本犬に多いと言われている

先天性の赤血球異常症を持っている可能性がある犬種
ビーグル、バセンジー、ミニチュア・シュナウザー、ウェスティー、イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル、コッカー、アラスカン・マラミュートなど

犬の貧血の原因と考えられる病気貧血の種類6つ

貧血の種類には複数あり、病気が原因となってあらわれることあります。ここでは貧血の種類を6つ挙げ、それぞれの貧血をひきおこす原因となる病気などについても解説します。

溶血性貧血

溶血とは、血液中の赤血球が破壊される状態です。赤血球が溶血すると、血液中の赤血球が減少して貧血になります。溶血がおこる原因は複数ありますが、ここでは代表的な「免疫介在性溶血」と「感染性溶血」の2つについてご紹介します。

免疫介在性溶血

抗体や補体など、自分の体の中の免疫が赤血球を壊す病気です。免疫介在性溶血をおこす病気には、自己免疫性溶血、薬剤誘発性溶血、新生子溶血、不適合輸血などが挙げられます。

感染性溶血

細菌、ウイルス、リケッチア、原虫などの感染が原因でおこる溶血です。あとからご紹介するバベシア症や、ヘモバルトネラ症、レプトスピラ症などが挙げられます。

鉄欠乏性貧血

赤血球中のヘモグロビン合成が低下しておこる貧血です。原因としては、消化管、泌尿器、生殖器などに持病を持っていることや、寄生虫の大量感染による慢性出血などが挙げられます。まれに食物に含まれる鉄が少なすぎることでおこることもあります。

再生不良性貧血

血液の成分である赤血球、白血球、血小板はもともと「多能性造血幹細胞」という同じ細胞です。

ここからそれぞれの血球に成長しますが、このもともとの多能性造血幹細胞に障害がおきて、血液中の成分すべてが減少する状態です。原因不明の突発性と、薬剤や放射線、感染などによって引き起こされる二次性(続発性)のものに分類されます。

出血性貧血

交通事故による大怪我や、手術などによって多量に出血した際、また、もともと持っていた肝臓や脾臓などの腫瘍が破裂するなど、血液自体を大量に失って起こる貧血です。上でお伝えした鉄欠乏性貧血の原因となる、消化管や泌尿器、生殖器の病気による慢性出血や、寄生虫感染などによる慢性的出血も含まれます。

寄生虫

溶血性貧血の項目でもお伝えしたように、バベシア症という寄生虫症は貧血をひきおこします。バベシアは日本では特に西日本に多い原虫で、赤血球中に寄生するため赤血球が溶血するのです。

ノミ、マダニなど皮膚に寄生して吸血する寄生虫が大量に寄生した際も貧血をおこすことがあります。近年は減少していますが、犬鉤虫という消化管に寄生する寄生虫が大量に寄生すると、小腸の粘膜から吸血されて貧血になることがあります。

中毒

溶血性貧血の際にもご紹介しましたが、玉ねぎなどのネギ類による中毒は犬の赤血球を溶血するため貧血の原因となります。玉ねぎだけでなく、ネギ、にんにく、ニラなどネギ類全般に注意が必要です。

また、亜鉛やアセトアミノフェンという薬剤による中毒でも貧血をおこすことがあります。亜鉛メッキされたボルトなどの工具や、人の薬を犬が誤って口にしないように注意しましょう。

犬の貧血の検査方法

貧血自体がおきているかどうかは、血液検査で比較的容易に判断できます。血液検査では赤血球の数とヘモグロビンの量がわかるため、血液中の赤血球の数自体が少ない場合、赤血球の数自体は正常でも、中に含まれるヘモグロビンの値が正常より少ない場合などを貧血と判断します。

次に、上でもお伝えした「溶血性貧血」など、貧血の種類を特定します。ここまでは主に血液検査を中心に診断が可能です。どのような種類の貧血になっているかがわかったら、さらに原因となる病気などを探ります。そのためには、犬の全身の検査が必要なこともあり、尿検査やレントゲン検査、超音波検査などを行うこともあります。これらの検査と飼い主様からの聴取によって、総合的に貧血の原因を特定していきます。

犬の貧血の治療方法

貧血の治療は、その貧血の種類や原因となる病気によってさまざまです。ただし、一般的にはどのような貧血であっても、まずは点滴を行って体の中の体液量を増やし、循環を良くすることが多いです。貧血の場合、体温が下がっていることも多いため、保温や加温を行うこともあります。

重篤な貧血の際は輸血が必要な場合もありますが、犬の輸血にはドナーとなる犬が必要なため、ドナーを確保できていない動物病院ではすぐに輸血を行うことが難しい場合もあります。

原因が外傷、および内臓からの出血であれば、外科的に出血箇所を処置したり、止血剤などを投与します。寄生虫による出血の場合は寄生虫の駆除を行います。鉄欠乏性貧血の際は、鉄剤を利用することもありますし、免疫が関与する貧血では免疫抑制のためのステロイド剤など使用することもあります。

犬の貧血の予防方法

ここまでお伝えしたように、犬の貧血には様々な原因が考えられ、先天性の病気などでは予防が難しい場合もあります。しかし、犬の貧血を予防するためには、健康的な生活を送ることが大切です。適度な運動、適切な食事、ストレスのない環境などを心がけましょう。

中毒防止のためには、犬が誤って人の食べ物を口にしないような工夫が必要です。食材や飼い主様の薬を放置するのはNGです。また、レプトスピラ症などはワクチンでの予防が可能なため、感染の可能性がある生活を送っている場合は動物病院で相談してみると良いでしょう。マダニやノミなどの定期的な予防は、貧血だけでなく他の様々な感染症予防のためにも大切です。

貧血の背後には命に関わる病気が潜むことも

今回の記事では、犬の貧血についてお伝えしました。貧血というと、人の場合体質などでしばしばおこすこともあり、それほど危険視されないこともあります。

しかし、犬の貧血には放置すると命に関わる病気が潜んでいるケースもあります。犬の貧血は、重症化しないと飼い主様が見ても気づきにくいこともあります。愛犬の健康を守るためには、日々の観察はもちろんですが、定期的な健康診断で血液検査を行ってもらって貧血がないかどうかを確認することも大切です。