想像したくない出来事ですが、犬との生活の中では愛犬の心臓が止まってしまうことがあるかもしれません。そのような事態に備えて心臓マッサージの方法を知っておきたいという飼い主様もいるでしょう。

犬が倒れてしまったら、まずは心臓が止まっているか、呼吸が止まっているかを確認し、心拍も呼吸も確認できない場合は、心臓マッサージと人工呼吸を行う必要があります。

今回の記事では、心臓マッサージの前の確認事項や、心臓マッサージと人工呼吸の手順を具体的に解説します。

【心臓マッサージをする前に】犬の様子がおかしい時に確認したいこと

犬の様子がおかしいからと言って、すぐに心臓マッサージをすべきではありません。まずは下記の手順で、意識や呼吸などを確認しましょう。

犬の意識があるかを確認する

犬がぐったりと倒れ、声をかけても尻尾や耳の反応がない場合、意識がないと判断します。
このような状況では死期が近い可能性もあります。死期が近づくと、呼吸が減り、脳に酸素が行き届かなくなるため意識が遠のくのです。また、死期が近いと体温調節ができなくなるため、体は冷たくなる傾向があります。

呼吸の乱れを確認する

犬が亡くなる直前は、呼吸が不規則になることがあります。特に、息を引き取る前には、口を開けたまま浅くあえぐような呼吸をしたり、下顎だけを動かすような死戦期呼吸と呼ばれる呼吸がみられることもあります。これは、すでに心臓が止まったあとに起こる現象で、犬本人の意識はありません。

また、亡くなる前は、浅い呼吸と深い呼吸、無呼吸を繰り返すチェーンストークス呼吸という呼吸が見られることもあります。このような呼吸は、いずれも犬が息を引き取る準備段階で、通常の呼吸ではないため、見つけたらすぐに心肺蘇生を始める必要があると言えます。

犬に心臓マッサージや人工呼吸を施す際に確認すべきこと

蘇生を試みるまえに、まずは確認すべき項目があります。

心臓が止まっているか

犬の胸のやや左側に耳を当てて心臓の音を確認します。健康な犬ではすぐに「ドックンドックン」という音が聞こえますが、心臓の動きが落ちていると、音が小さすぎて聞こえなかったり心臓の動きがゆっくり過ぎて聞こえない場合があります。

心臓の音が聞こえないからと言って心臓が止まっているとは言い切れず、判断が難しいところですが、意識がなく呼吸もなければ蘇生をはじめるのが良いでしょう。

呼吸が止まっているか

犬の口もとに耳を近づけて、呼吸音が聞こえるかどうかを確認しましょう。音が聞こえない場合は、口もとに手を当てて手に空気が当たるかどうかを確認したり、口元にティッシュを垂らして動きを確認する方法もあります。

呼吸があるかどうかを判断できない場合は、蘇生をはじめてみましょう。その後、犬が動くなどの様子が見られたら、その時点で中止すれば良いでしょう。

心臓マッサージの手順

心臓の動きも、呼吸も確認できなければ心臓マッサージと人工呼吸を行います。もし、心拍が確認できても呼吸がない場合、次の解説する人工呼吸のみを行います。心臓マッサージの具体的な手順は下記となります。

心臓の位置を確認する

左側を上にして犬を横向きに寝かせます。肘を関節に沿って曲げてみて、肘が当たるあたりに心臓があります。心臓マッサージはこの周囲を全体的に動かして心臓を圧迫するイメージで行いましょう。

ひじは曲げずに体重をかける感覚で押す

心臓マッサージは左側を上にした横向きが基本です。犬の体格によっていくつかのやり方があります。

体重3Kg以上20Kg以下程度の犬の場合、左右の手のひらのどちらか一方を広げ、上で確認した心臓の位置あたりに置きます。
もう一方をグーにして上に添え、ひじを曲げずに体重をかけて胸が体の厚みの1/3くらい沈む程度の力で圧迫します。

体重20Kg以上の大型犬の場合、胸全体を圧迫するように、心臓の上ではなく、胸の一番膨らんでいるところに手を当てて圧迫します。
ブルドッグなどの胸が樽形の犬は、仰向けにして胸の中心の最も高い部分を圧迫することもあります。その犬に合った圧迫方法は、予め獣医師に相談しておくと良いでしょう。

押して力を抜く動作を繰り返す

心臓マッサージは、止まってしまった心臓の代わりに、胸を押して力を抜く動作を繰り返し、心臓を外側からポンプのように動かして脳や臓器に血液を送り出すのが目的です。マッサージの速度は本来の犬の心拍と同じ程度が理想で、1分間で100回~120回です。わかりやすいように「アンパンマンのマーチ」のリズムだと言われることもあります。

犬の人工呼吸の手順

犬の呼吸が確認できない場合は、人工呼吸も行います。心拍、呼吸共に確認できない場合は、上記の心臓マッサージを30秒ほど行い、続けて人工呼吸を2回行い、また心臓マッサージを行うということを繰り返します。犬からの感染を防ぐために、手袋などがあると良いでしょう。

気道を確保する

犬の人工呼吸は、心臓マッサージと同様に左側を上にした横向きです。また、息は口からではなく、鼻から吹き込みます。まず、空気の通り道である気道を確保するため、首をまっすぐに伸ばしましょう。首を伸ばすためには、ある程度の力をかけて頭をひっぱる必要があります。

犬の舌を引き出す

舌が喉の奥に引っ込んでいると空気が気道を通りません。舌はひっぱって、口の端から垂らすようにしましょう。ガーゼなどで掴むと滑りにくいです。舌を引き出したら、犬の口を閉じておきます。気づくと舌が落ち込んでしまうことも多いため、できるだけ舌をひっぱった状態で保てるように気をつけましょう。

犬の鼻から息を吹き込む

空気が漏れないように、犬の口の端の隙間を手やタオルなどで塞ぎ、犬の鼻から息をゆっくり吹き込みます。犬の体格によって肺の大きさは異なりますが、小型犬の場合1秒、中型犬や大型犬の場合は2秒を目安に勢いをつけずにじわりと吹き込みます。この時、胸が膨らむことが確認できれば人工呼吸が成功しています。うまくいったかどうかわからなくても、2回吹き込んだら心臓マッサージに戻りましょう。

犬の心臓マッサージや人工呼吸に関する資格や講習

ここまで、犬の心臓マッサージや人工呼吸の方法をお伝えしました。記事を読むだけではなかなかイメージをしづらいかもしれません。ここでは、犬の心配蘇生に関する資格や講習についてご紹介します。興味のある方は参加してみるのも良いでしょう。

一般向けペットセーバー講習会

一般社団法人 日本国際動物救命救急協会という団体が認定しているペットセーバーという資格があります。この資格は、プログラムを受講することで認められ、国際認定修了証書が発行されたり、民間資格として履歴書などにも記載できます。

ペットセーバープログラムには、トリマーなどの事業者向けの講習や、災害救助犬用ペットセーバーの講習会など数種類の講習会がありますが、その中の一般向けペットセーバー講習会では、一般の飼い主様を対象に、犬と猫の心肺蘇生法をはじめとする救命救急法を学ぶことができます。

ペットBLS検定

一般社団法人 日本ペットBLS防災学会では、ペットBLS検定を行なっています。この検定は、オンライン受講が可能で、教材や器材が自宅に配送されます。

講習を受けると認定証カードが発行され、民間資格として履歴書などにも記載できます。6歳以上の誰でも受けることができる検定です。

知っておけば愛犬の命を救える可能性がある!

今回の記事では、犬の心臓マッサージや人工呼吸の方法をお伝えしました。できれば遭遇したくない出来事ですが、万一愛犬の心臓が止まってしまったり、呼吸が止まってしまった場合、咄嗟に判断して蘇生を試みることができれば愛犬を救うことができるかもしれません。

「何もできなかった」という後悔を引きずることを避けるためにも、今回ご紹介した資格なども視野に、ぜひ情報を取り入れてみてください。